― 急性期病棟で私が見てきた現実 ―
導入
夜勤になると、昼間は比較的落ち着いていた認知症の患者さんが、急に不穏になる。
点滴を抜こうとしたり、ナースコールが止まらなかったり、「このままでは危ないのでは」と抑制の話が出ることもあります。
私自身、急性期病棟で夜勤に入るたび、同じような場面を何度も経験してきました。
「どうして夜になると、こんなにも状態が変わるのだろう」
そう感じながらも、忙しさの中で立ち止まれず、気づけば自分の心がすり減っている。そんな夜も少なくありませんでした。
この記事では、夜勤で認知症の人が落ち着かなくなる理由と、
私が現場で少しずつ気づいてきた視点についてお伝えします。
夜勤で認知症の症状が悪化して見える理由
夜勤帯は、認知症の人にとってとても過酷な時間です。
病棟は暗くなり、人の出入りは減り、聞こえてくる音も昼間とは変わります。
時計や窓が見えにくくなり、「今がいつなのか」「ここがどこなのか」を判断する手がかりが一気に減ってしまいます。
私たち看護師にとっては「いつもの夜勤」でも、
認知症の人にとっては、世界が突然変わってしまったような感覚なのかもしれません。
さらに、昼夜逆転や身体的な疲労が重なると、不安はより強くなります。
その結果として現れるのが、落ち着きのなさや行動の変化なのです。
「せん妄」だけでは説明できない夜の不安
夜間の変化を「せん妄だから仕方ない」とまとめてしまうこともあります。
もちろん、せん妄が関係しているケースもあります。
けれど、すべてを「せん妄」で片づけてしまうと、大切な視点を見落としてしまうことがあります。
認知症の人にとって夜は、
- ここにいる理由がわからない
- 何をされているのかわからない
- 誰に頼っていいのかわからない
そんな「わからなさ」が一気に押し寄せる時間です。
その不安が、
徘徊や拒否、点滴の自己抜去といった行動として表れているだけ。
そう考えると、「困った行動」ではなく、意味のある反応に見えてきます。
急性期病棟で私が出会った、ある夜の出来事
ある夜、何度もナースコールを押す高齢の患者さんがいました。
「またか…」と正直思ってしまった自分がいます。
訪室すると、「ここはどこだ」「帰らなきゃ」と不安そうな表情。
説明しても、数分後にはまた同じコールが鳴る。
忙しさと焦りで、私の声かけはどこか早口になっていました。
ふと、その方の顔を見たとき、
不安というより、取り残されたような表情をしていることに気づきました。
「この人は、夜の静かな病棟で、一人で取り残されていると感じているのかもしれない」
そう思った瞬間、
「どう対応するか」よりも
「この人は今、何が不安なのか」を考えたくなりました。
視点を変えると、看護の選択肢が増える
そこから私の中で、少しずつ視点が変わっていきました。
「どうしてこんな行動をするのか」ではなく、
「何がわからなくて、何が不安なのか」
そう考えるようになると、
抑制以外にもできることが見えてきました。
環境を整える、説明の仕方を変える、声をかけるタイミングを意識する。
劇的に改善するわけではなくても、
少し表情が和らぐ、少しコールが減る
そんな小さな変化が積み重なっていきました。
夜勤で今日からできる小さな工夫3つ
夜勤中、完璧なケアはできません。
それでも、今日からできることはあります。
① 今が「夜」だと伝える一言
「今は夜で、ここは病院です。朝になったらまた説明しますね」
時間の手がかりを、繰り返し短く伝えます。
② 理由を先に伝える声かけ
「点滴は体を良くするために入っています」
行為の前に理由を伝えるだけで、不安が和らぐことがあります。
③ 5秒だけ立ち止まって表情を見る
急いでいても、一瞬目を合わせる。
それだけで「一人じゃない」と伝わることがあります。
まとめ
夜勤で認知症の人が落ち着かなくなるのは、
その人が変わったからではありません。
環境と状況が大きく変わる時間帯だからです。
そして、対応に悩み、つらくなる看護師が悪いわけでもありません。
完璧な正解はなくても、
理解しようとする姿勢が、看護の選択肢を広げてくれます。
夜勤で「もう限界かも」と感じたとき、
ほんの少し立ち止まって、
「この人は今、何が不安なのだろう」と考えてみてください。
それだけで、選べる看護は確実に増えていきます。


