「家族から相談を受ける」ということ
認知症やせん妄のある患者さんを担当していると、家族から相談や訴えを受けることがあります。
「家ではこんなことはなかった」
「入院してから様子が変わった気がする」
「本人は大丈夫でしょうか」
家族から話を聞くと、その言葉の背景には、患者さんを心配する気持ちがあることを感じます。
看護師としては、患者さんの状態を見ながら、その時に必要なケアを考えていきます。
でも、家族にとっては、
「大切な人が今どうなっているのか」
「自分たちは何をしたらいいのか」
分からないことも多いのだと思います。
だからこそ、家族からの相談や訴えを、まずは丁寧に聞くことを大切にしています。
家族が望むケアを、すべて実現できるわけではない
一方で、家族から相談を受ける中には、難しさを感じる場面もあります。
家族が患者さんのためを思って、
「好きなものを食べさせてあげたい」
「好きなものを飲ませてあげたい」
「自宅でしていたことを病院でも続けてほしい」
と希望されることがあります。
その気持ちはよく分かります。
患者さんが少しでも穏やかに過ごせるように。
入院中でも、その人らしく過ごしてほしい。
家族としては、当然の願いなのだと思います。
私自身も、その希望をできる限り叶えてあげたいと思います。
でも、急性期病院という環境では、家族が望むケアをすべて実現することは難しい場合があります。
「好きなものを食べさせたい」という家族の思い
例えば、患者さんが好きなものを食べたいと希望している場合。
家族からすれば、
「本人が食べたいと言っているのだから、食べさせてあげたい」
と思うのは自然なことです。
でも、病院では、
衛生面の管理が必要な場合があります。
栄養状態を考える必要もあります。
治療との兼ね合いもあります。
患者さんの状態によっては、食べること自体に注意が必要なこともあります。
家族の思いを否定したいわけではありません。
むしろ、その気持ちは理解できます。
だからこそ、
「どうしたら患者さんにとって良い形で実現できるか」
を考えながら、できることと難しいことを説明する必要があります。
要望が増えていくときに感じる葛藤
難しいのは、一つの要望だけでは終わらないことがあることです。
「これもしてほしい」
「あれもしてほしい」
「家ではこうしていたから、病院でも同じようにしてほしい」
家族の希望が少しずつ増えていくことがあります。
もちろん、その一つひとつには患者さんを思う気持ちがあるのだと思います。
でも、病棟では一人の患者さんだけに時間をかけ続けることはできません。
他にもケアを必要としている患者さんがいます。
急性期病院では、状態の変化に対応しながら、治療を安全に進めることも求められます。
そのため、患者さん一人ひとりに合わせた個別的なケアを大切にしながらも、すべての希望をそのまま実現することは難しいのです。
この部分は、看護師としても悩みます。
「できる限り応えたい」
という気持ちと、
「すべてには応えられない」
という現実の間で、葛藤することがあります。
急性期病院と、自宅や施設では環境が違う
自宅や施設では、その人の生活に合わせたケアができることがあります。
好きな時間に好きなものを食べる。
本人が好きなことをする。
その人の生活リズムに合わせる。
そうした「楽しみ」や「余暇」も、その人らしく生活するためには大切なものです。
でも、急性期病院では、まず治療を安全に進め、身体状態を安定させることが優先されます。
もちろん、患者さんの楽しみや個別性を大切にしたいと思っています。
ただ、自宅や施設で行っていたケアを、そのまま病院で継続できるとは限りません。
環境も違います。
スタッフの人数も違います。
病院として担う役割も違います。
だからこそ、
「自宅でできていたことを、病院でも同じように」
という希望に対して、難しさを感じることがあります。
「お願い」と「必ず実施すること」は違う
家族から、
「こうしてほしい」
とお願いされたとき、その希望を受け止めることは大切です。
でも、お願いされたことが、必ず実施できるとは限りません。
患者さんの状態によって変わることもあります。
その日の病棟の状況によって難しいこともあります。
安全面や衛生面、治療上の理由から、できないこともあります。
だからこそ、
「希望を聞くこと」と「希望を必ず実現すること」は、別のことなのだと思います。
看護師としても、
「できることは何か」
「難しいことは何か」
「代わりにできることはないか」
を考えながら、家族と一緒に方法を探していく必要があります。
家族の不安にも理由がある
中には、以前に入院した病院や他の医療機関で、思うようなケアを受けられなかった経験を持つ家族もいます。
そのような経験があると、
「今度は、この病院ではきちんとケアをしてほしい」
という思いが強くなることもあるのだと思います。
家族が、
「前の病院ではこうしてくれた」
「もっとこうしてほしい」
と訴える背景には、これまでの経験や不安があるのかもしれません。
その気持ちは、できる限り理解したいと思っています。
ただ、どの医療機関でも同じようなケアができるわけではありません。
病院ごとに役割や体制が違います。
患者さんの状態や治療内容によっても、できることは変わります。
だからこそ、家族の希望を否定するのではなく、
「なぜそれを望んでいるのか」
を知ることから始めたいと思っています。
家族の願いと、病院でできることの間で
家族の希望は、患者さんを大切に思う気持ちから生まれています。
だからこそ、簡単に「できません」と言いたくない。
でも、すべてに応えようとすると、患者さんの安全や治療に影響することもあります。
また、一人の患者さんへの対応に時間をかけすぎることで、他の患者さんへのケアが十分にできなくなる可能性もあります。
看護師としては、
「この患者さんのためにできること」
と同時に、
「病棟全体の患者さんに必要なケア」
も考えなければなりません。
その間で悩み、葛藤することがあります。
それでも、家族との信頼関係を大切にしたい
家族の希望をすべて叶えられなくても、
「できないから終わり」
ではないと思っています。
大切なのは、
なぜ難しいのかを説明すること。
そして、
「では、何ならできるのか」
を一緒に考えること。
家族の希望をそのまま実現できなくても、その思いを理解しようとする姿勢は持ち続けたいと思っています。
「この病院では、何でもしてくれる」
という関係ではなく、
「この病院ではできることとできないことがある。でも、患者さんのために一緒に考えてくれる」
そんな信頼関係を築くことができたらと思います。
最後に
認知症やせん妄のある患者さんを支えるとき、家族との関わりはとても大切です。
家族の言葉には、患者さんを思う気持ちがあります。
その気持ちは大切にしたい。
でも同時に、急性期病院には、急性期病院としての役割があります。
すべての希望を叶えることが、必ずしも患者さんにとって最善とは限りません。
家族が望むこと。
患者さん本人が望むこと。
病院としてできること。
治療や安全のために必要なこと。
そのすべてを考えながら、最善の方法を探していく。
そこには、簡単に答えが出ないこともあります。
だからこそ、家族の言葉を受け止めながら、
「なぜ、それを望んでいるのか」
を考え、
できることと難しいことを丁寧に伝え、
その中で一緒に方法を探していく。
家族との信頼関係とは、
「すべての希望を叶えること」
ではなく、
「希望を理解し、できることを一緒に考え続けること」
なのかもしれません。
看護師として、家族の思いと病院の現実の間で悩み、葛藤することがあります。
それでも、その葛藤から逃げずに、
患者さんにとって何が大切なのかを考え続けること。
それもまた、家族との信頼関係をつくるために必要な看護なのだと思います。

